アドラー心理学を、日々の行動に落とし込む
アドラー心理学の目的論、劣等感、課題の分離、共同体感覚を、自分の仕事や人間関係でどう実践するか整理する。
アドラー心理学を、日々の行動に落とし込む
人生で大切にしたいことの一つに、以前から「アドラー心理学を体現する」を挙げている。
心がけること
- 過去だけで決めつけず、いま選べる行動を見る
- 客観的な事実と、自分の解釈を分ける
- 感情が湧いても、その後の行動は自分で選ぶ
- 劣等感を自己否定ではなく、成長の材料にする
- 自分の課題に責任を持ち、相手の課題を背負いすぎない
- 他人の承認ではなく、自分の価値観で決める
- 自分と相手、二人の「私たち」の幸せを考える
- 課題を分けたうえで、自分から先に愛し、信頼する
- 自立しながら、周りとのつながりや貢献を大切にする
- 自分や相手を責めるより、次の一歩を踏み出せるように勇気づける
アドラー心理学を知ったきっかけ
きっかけは、本が好きな友人から、いらなくなった本を10冊ほどもらったことだった。 その中に『嫌われる勇気』があった。
それまでの自分は、読書をほとんどしたことがなかった。 ただ、時間もあったので、なんとなく『嫌われる勇気』を読み始めた。
読み進めるうちに、物事の見方が変わっていく感覚があった。 他人からどう見られるか、自分では変えられないことにどこまで悩むのか、これからどう生きたいのか。 それまで考えたことのなかった問いに触れて、少し大げさかもしれないけど、世界が変わったように感じた。
一冊の本をきっかけに、考え方次第で物事の見え方は変わることを知った。 それまでほとんど本を読まなかった自分にとって、一冊の本で世界の見え方が変わることがあるのだと、初めて実感した。
この記事を書こうと思った理由
ただ、思想は知っているだけではあまり意味がない。 仕事で悩んだとき、人間関係で相手の反応が気になったとき、自分に自信が持てないときに、どう行動するかまで落とし込んで初めて役に立つ。
この記事では、アドラー心理学の基本的な考え方と、自分が日々意識したいことを整理する。
アドラー心理学とは
アドラー心理学は、オーストリア出身の医師・心理療法家アルフレッド・アドラーが築いた心理学で、正式には「個人心理学」と呼ばれる。
ここでいう「個人」は、周囲から切り離された一人という意味ではない。 人を心と体、過去と現在、個人と社会に分断せず、一つのまとまりとして捉える考え方である。
アドラー心理学では、人は過去だけで機械的に決まる存在ではなく、目標や意味づけに向かって行動する存在として考える。 同時に、人は一人では生きられず、他者とのつながりや社会への貢献が幸福に深く関わると捉える。
自立とつながりを両立させようとするところに、アドラー心理学の魅力を感じている。
世界そのものより、どう捉えているか
『嫌われる勇気』の冒頭にある、「世界はどこまでもシンプルである」(p.2)という言葉が好きだ。
客観的な事実はある。 ただ、その事実をどう捉えるかは人によって違う。 同じ人であっても、立場や置かれている状況が変われば、世界の見え方は変わる。
つまり、私たちは客観的な世界をそのまま見ているのではなく、自分なりの意味を与えた主観的な世界を見ている。
問題は、世界がどうであるかだけではなく、自分がそれをどう見て、どう行動するかにある。 世界について考えること自体が楽しいなら、それはそれでいい。 でも、自分では変えられないことを考え続けて苦しくなるより、自分の捉え方や行動に目を向けたい。
「人は変われる」という考え方にも惹かれる。 ただし、遺伝や生まれた環境など、自分では変えられない部分があることも忘れたくない。 何もかも自由に変えられるという意味ではなく、変えられない条件を認めたうえで、解釈や選択、これからの行動は変えられる、ということだと思っている。
原因だけでなく、目的を見る
何かがうまくいかないとき、私たちは原因を探しがちだ。
- 過去に失敗したから挑戦できない
- 自信がないから発言できない
- 相手が苦手だから話しかけられない
原因を理解することは大切だけど、それだけでは行動が変わらないこともある。
そんなときは、「この行動によって、何を避けようとしているのか」「何を得ようとしているのか」と考える。
たとえば、「自信がないから発言しない」のではなく、「間違えて評価が下がることを避けるために、発言しないことを選んでいる」と捉えてみる。 見方を変えると、自信がつくまで待つのではなく、「一度だけ質問する」「事前に要点をメモする」といった次の行動を選びやすくなる。
過去の影響を無視するのではない。 変えられない原因だけに留まらず、いまの自分が変えられる目的や行動にも目を向ける、ということだと思っている。
問題は「何があったか」だけではなく、それを自分が「どう解釈したか」にもある。 過去の事実は変えられないけど、過去を理由に今後の可能性まで決める必要はない。
「自分はこうしたい」というものがあるなら、過去がどうだったかを繰り返し考えるより、そのために何ができるかを考えて行動する。 過去は自分を決める判決ではなく、これからを考えるための情報として扱いたい。
感情があっても、行動は選べる
『嫌われる勇気』には、怒りを「出し入れ可能な道具」として捉える話が出てくる。
怒りそのものが湧くことはある。 感情を持たないようにするのではなく、その感情を使って相手を動かそうとしていないか、いったん立ち止まって考えたい。
- 声を荒らげて、相手を従わせようとしていないか
- 怒ることで、話し合いを終わらせようとしていないか
- 本当は何を伝え、どんな結果にしたいのか
人は感情に影響されるけど、感情のまま行動するしかないわけではない。 すぐに反応せず、事実と解釈を分け、次の行動を選ぶことはできる。
感情を否定するのではなく、感情があっても自分をコントロールする。 怒りについては、もう少し深く理解するために、あらためて本の前後を読み返したい。
劣等感を、成長の材料にする
劣等感は、なくすべき悪い感情ではない。
できないことや足りない部分があるからこそ、人は工夫し、学び、前に進める。 「できない自分はだめだ」で終わるのではなく、「では、どうなりたいか」「そのために何ができるか」へ変換する。
一方で、他人より優れていることを証明し続けようとすると、比較から抜け出せなくなる。 勝っているときだけ自分を認める生き方は、不安定で苦しい。
比較するなら、他人よりも過去の自分と比べたい。
- 昨日より少し理解できたか
- 前回より丁寧に対応できたか
- 失敗から一つでも学べたか
劣等感を自己否定ではなく、進みたい方向を教えるサインとして扱う。
ここで大切なのが、いまの自分を受け入れることだと思う。
「自分はこうだからできない」「こんな自分はだめだ」と考え続けても、自分がかわいそうだし、状況も変わらない。 私は私。それ以上でも、それ以下でもない。
大切なのは、何が与えられているかではなく、与えられたものをどう使うか。
ないものを把握することは、現在地を知るために必要だ。 でも、ないことを嘆き続けるより、いま持っている武器をどう生かすかを考える。 必要で、手に入れられそうな武器があるなら、学び、身につけにいく。
自分の課題と、相手の課題を分ける
「課題の分離」は、日本でアドラー心理学を理解する際によく使われる考え方の一つだ。
見分ける基準は、「その選択の結果を、最終的に誰が引き受けるのか」。
自分が誠実に説明することは、自分の課題。 その説明を聞いた相手がどう評価するかは、相手の課題。
自分が部下を支援し、必要な情報を渡すことは、自分の課題。 本人がどう受け取り、どう行動するかは、本人の課題。
相手の反応までコントロールしようとすると、必要以上に顔色をうかがったり、逆に相手を動かそうとしたりしてしまう。 自分が責任を持てる範囲に集中した方が、落ち着いて行動できる。
ただし、課題を分けることは、他人を突き放すことではない。 助けを求められたら支援する。困っている人には声をかける。それでも、相手の人生を代わりに生きることはできない。
境界線を持ちながら、協力することが大切だと思う。
自分の中に、相手へ期待している部分があることにも気づく。 期待が強くなると、「相手もこうするべきだ」と自分の考えを押しつけ、思い通りにならないと不快になってしまう。
期待すること自体を完全になくすのは難しい。 だからこそ、黙って期待するのではなく、必要なことは言葉にして共有する。 そのうえで、相手がどう判断するかは相手の課題として受け止めたい。
他人の承認を、行動の目的にしない
褒められればうれしいし、否定されれば落ち込む。 他者からの評価を完全に気にしないのは難しい。
それでも、承認されることを行動の中心に置くと、自分の選択が他人次第になってしまう。
- 嫌われないために、本音を言わない
- 評価される仕事だけを選ぶ
- 期待を裏切らないために、無理を続ける
大切なのは、他人の評価を無視することではなく、参考情報として受け取り、最後は自分の価値観で決めることだと思う。
「どう見られるか」より、「自分はどうありたいか」を基準にする。 その選択で相手がどう感じるかには配慮しつつ、全員に好かれることまでは目指さない。
自立は、孤立ではない
アドラー心理学の中核には、「共同体感覚」という考え方がある。
自分には居場所があると感じること、他者を仲間として捉えること、そして誰かや社会に貢献しようとすること。 自分だけの成功ではなく、周りと協力しながら生きる姿勢だと理解している。
これは、自己犠牲とは違う。 自分をすり減らして他人に尽くすのではなく、自分も共同体の一員として大切にしながら、できる範囲で価値を渡す。
仕事でも、「自分が評価されるか」だけを考えるより、「チームが前に進むために何ができるか」と考えた方が、行動を選びやすい。
- 知っていることを共有する
- 困っている人に声をかける
- 相手を信頼して、任せる
- 感謝や助かったことを言葉にする
大きな貢献でなくていい。 小さくても、自分が誰かの役に立てたと感じられることが、居場所や幸福につながるのだと思う。
幸せを考えるときは、「私」と「相手」を分けすぎないようにしたい。
- 私の幸せだけを考えて、自己中心的にならない
- 相手の幸せだけを考えて、自己犠牲にならない
- 私と相手、二人の「私たち」の幸せを考える
私たちは、完全に利己的でも、完全に利他的でもない。 どちらか一方を犠牲にするのではなく、お互いを一つの共同体として捉え、二人にとってよりよい形を探す。
「貢献感の中に幸福を見いだす」という考え方も、共同体感覚につながっている。 評価や見返りのためではなく、自分が誰かの役に立てたと感じられること。 それは、自分の居場所を感じることでもある。
ただし、貢献感を得るために無理をしたら、自己犠牲になってしまう。 自分も相手も大切にできる範囲で貢献することを心がけたい。
『幸せになる勇気』より(引用メモ)
『嫌われる勇気』の続編である『幸せになる勇気』から、特に残しておきたい言葉をまとめる。
- 人生の主語を「わたしたち」にする
- 「楽になること」ではなく、「幸せになること」
- 結婚とは、「対象」を選ぶのではなく、「自らの生き方」を選ぶもの
- 課題を分離し、ただ自分から先に愛する
- 献身的な働きかけ
- 共同体感覚に基づくと、人間関係はお互いに支え合い、協力し合うものであるべき
- 信頼とは、他者を信じるにあたり、いっさいの条件をつけないこと
- 尊重とは、「もしも私がこの人と同じ種類の心と人生をもっていたら?」と考えること
これらに共通しているのは、「私」だけで完結せず、自分と相手を含めた「わたしたち」を主語にして生きる姿勢だと思う。
相手が先に愛してくれることや、自分の期待どおりに動いてくれることを条件にしない。 課題を分離したうえで、自分がどう関わりたいかを自分で選び、まず自分から働きかける。
ただし、先に愛することや無条件に信頼することは、自分を犠牲にしたり、相手のあらゆる行動を受け入れたりすることではない。 自分の安全や境界線を守りながら、それでも相手を理解し、支え合える関係を選ぶことだと捉えている。
相手を変えるより、勇気づける
人を動かすために、叱る、命令する、褒めて誘導する。 こうした関わり方は、その場では効果があるように見えても、相手が自分で考える機会を奪うことがある。
意識したいのは、相手が自分の力で一歩を踏み出せるように関わることだ。
- 結果だけでなく、工夫や過程を見る
- 失敗した事実と、その人の価値を分ける
- 答えを渡す前に、相手の考えを聞く
- 「助かった」「ありがとう」を具体的に伝える
自分自身に対しても同じで、失敗したときに責め続けるより、「次に何を変えるか」を考える。 必要なのは、完璧になってから動くことではなく、不完全なまま一歩を踏み出す勇気だと思う。
仕事や人間関係で迷ったときの問い
考え方を知識だけで終わらせないために、迷ったときは次のことを自分に問いたい。
- いま起きている事実と、自分の解釈を分けられているか
- この行動で、何を避け、何を得ようとしているのか
- これは誰の課題か
- 自分がコントロールできる次の一歩は何か
- 他人の承認ではなく、自分の価値観で選べているか
- 相手やチームに対して、どんな貢献ができるか
- 自分と相手、二人にとってよりよい選択になっているか
答えがすぐに出なくても、一度立ち止まって考えるだけで、感情のまま反応することは減らせる。
あとで読み返したいこと
- 『嫌われる勇気』で、怒りを「出し入れ可能な道具」と説明している前後の文脈
- 「問題は何があったかではなく、どう解釈したか」という考え方の詳しい意図
- 『7つの習慣』p.120にある「地図」の話と、主観的な世界・ものの見方とのつながり
- 「貢献感の中に幸福を見いだす」という考え方と、自己犠牲との違い
誤解しないようにしたいこと
アドラー心理学は、何でも自己責任にするための考え方ではない。 家庭環境、病気、差別、経済状況など、本人の意思だけでは変えられない条件は確かにある。
また、過去の傷つきや感情を無視して、「考え方を変えればいい」と片づけるものでもない。
自分で選べる部分に目を向けることと、外部の影響や必要な支援を認めることは両立する。 つらさが続くときは、一人で解決しようとせず、医療機関や心理職などの専門家に相談することも大切だと思う。
「課題の分離」も「目的を見ること」も、他人を切り捨てたり、苦しんでいる人を責めたりするためには使いたくない。
まとめ
アドラー心理学から、自分が特に大切にしたいことは次の通り。
- 過去だけで決めつけず、いま選べる行動を見る
- 事実と解釈を分け、感情があっても行動は自分で選ぶ
- 劣等感を自己否定ではなく、成長の材料にする
- 自分の課題に責任を持ち、相手の課題を背負いすぎない
- 他人の承認ではなく、自分の価値観で決める
- 自分と相手、二人の「私たち」の幸せを考える
- 課題を分けたうえで、自分から先に愛し、信頼する
- 自立しながら、周りとのつながりや貢献を大切にする
- 自分と相手を責めるより、次の一歩を踏み出せるように勇気づける
すべてを一度に実践するのは難しい。 まずは悩んだときに「これは誰の課題だろう」と考えるところから始めたい。
思想を知識で終わらせず、日々の小さな選択に表す。 それが、自分にとっての「アドラー心理学を体現する」ということだと思っている。
関連:好きな思想 / 良いリーダー・マネージャー
参考
- Alfred Adler: Vision and Lasting Impact(Adler University)
- Alfred Adler / About Adlerian Theory(North American Society for Adlerian Psychology)
- アルフレッド・アドラー『人生の意味の心理学』
- 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』
- 岸見一郎・古賀史健『幸せになる勇気』
※「課題の分離」など、日本で広く知られている表現には、アドラー本人の著作だけでなく、後世の研究者や入門書による整理・解釈も含まれる。
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